2018年04月06日

NO...4893 小説・二人作りしわが山斎は 11-1

(この作品は週刊読書人、白川正芳氏によって取り上げられました。)

         二人作りしわが山斎(しま)は

          1
 朝刊をざっと読み終えた京三は、眼鏡をはずして「また度が進んだようだ」と目頭を押さえながら、卓上にある別の眼鏡に掛け替えて、ゆっくりと庭に目をやった。
 おっ、ついに咲いたか……笑壺に入る。
「由紀子、牡丹が咲いたぞ」
 台所に向って声を大きくした。
「ええっ、どうしたのですか……」
 顔をのぞかせた由紀子は、長めの髪にローズ色のエプロンドレスがよく似合っている。
「牡丹が咲いたよ」
「そうですかぁ、あらチロちゃんおはよう。ごきげんね」
 笑みをこぼしながら話しかけるが、それと察した犬はもう京三の傍から起き上がり、尾をふって由紀子に近づいている。
「お腹空いたの。もうちょっと待ってね。みんなといっしょにご飯よ。いい子ちゃんね」
「どうだ、見てごらん。いい色じゃないか」
「あら、ホント」
 犬の方を向いたまま空返事をする。
「なに、チロちゃんだっこなの。甘えんぼねえ」
 小型犬は、造作なく抱き上げられたが、京三がテーブルに手をついて座椅子の背を握り立ち上がろうとすると、今度は床に下りたがった。そして京三を見上げたと思うと、もう廊下へかけて行く。
 ガラス戸の前で待つのは、京三が庭に出るのを知っているからだ。戸をあけると犬はすばやく庭に下りた。
「チロちゃん、芝生にオシッコはだめよ…。あら、きれいねえ」
 言葉の終わりをオクターブ高くしたのは、牡丹を見たからである。
「植え替えたせいか、今年は花が小さいな。でも生きていてくれたよ。ありがたいことだ」
 花が咲いたというほんのちょっとしたことが、これほど大袈裟に思えるのは、変化の少ない生活だからとも言える。
 作務衣の裾が露にぬれるのを気にしながら花壇に入り、牡丹の花に顔を近づけた。
 馥郁……ありきたりな表現しかできないのは不満だが、やはり牡丹は百花の王、西洋の花などとは断然違う。 
 眺めるうちに、ふと、芳乃の実家の中庭で見た牡丹を思い出し、胸の奥にかすかな痛みを感じた。
posted by akino at 00:00| Comment(4) | カテゴリ無し | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お、第2弾、始まりましたね。
これは全然記憶にないなぁ〜 以前のPCの本の中にあった? 芳乃の実家の牡丹・・何が出てくるのかな?
Posted by oss102 at 2018年04月06日 13:11
ふたり作りし、我が山斎(しま)は

 与妹為而 二作之 吾山齊者 木高繁 成家留鴨

 万葉集:巻三 大友旅人の亡き妻を想う歌からなのですね
Posted by Viva at 2018年04月06日 13:30
タイトルが印象深くて、よく憶えています。私は「山斎」が分からず辞書を引いたのでした。
Posted by まり at 2018年04月06日 14:10
Ossさん
さて、何が出てくるかはおたのしみ。全部で11 章です。

Vivaさん
よく調べてくださいました。ありがとうございます。


まりさん
覚えていてくださってありがとうございます。
とにかくここへ入れることで読んでいただけることうれしく思います。
Posted by あきの at 2018年04月06日 16:59
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