2018年03月31日

NO...4887

「ぬくぬく」読んでくださりありがとうございました。 たった数日、小説を載せている間に、桜は満開、先頭を走った「横浜緋桜」は散ってしまい、艶やかなのはソメイヨシノ・オオシマザクラなど。
公園を歩く人は、九ちゃんの歌のように、みんな上を向いて歩いています。そしてスマートフォンでパチリ。この季節は誰もがカメラマン。
今日あたりはケヤキの芽吹きと柳の芽吹きが目立ち始めました。つぎはイチョウの芽吹きと車道と歩道との間に区切りをつけているツツジの類が豪華に咲き始めます。ほんとうに「春爛漫」という言葉は言い得て妙。
リネツで久しぶりにお会いしたV氏に新聞の切り抜き(新聞連載・透明な歳月の光・曽野綾子)を、本の厚さほどの量でいただきました。思いがけないプレゼントに感激。いっしょに開館(9時にならないと開かない)を待っていた同年齢が「ええっ、あなたのいい人なの?」とわたしの顔を覗き込みました。
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2018年03月30日

NO...4886 ぬくぬく(終)

      8
 翌朝のバスで伯父さんと伯父さんの奥さんが来る。
 村の人たちも次々に顔を出して、葬儀の準備をはじめた。部屋のふすまが取り払われて、奥の座敷に祭壇ができると、祖母は祭壇の前に布団ごと移された。
 よろず屋の小母さんが洗い桶に湯を持ってきて、手拭いを浸し祖母の顔を丁寧に拭いた。祖母はされるがままに動かない。結は昨日までの祖母とは思えなくなって、みんなの前に寝ている祖母のところへは行けなくなっている。結のばあちゃんなのに、そうでなくなってしまったことが無性に悲しかった。
 家の中に居場所のない結は熊の森へ行った。
「ばあちゃん」
 結は木の洞に入ったまま、もう家に帰りたくないと思う。ご飯を食べないでじっとしていたら、死ねるかなと考える。そしたらばあちゃんのところへ行けるかも知れないと。
 
 家では、みんなが忙しさで結のことなど忘れていた。
 午後のバスで、父が家族といっしょに来た。均は結がいないのに、すぐに気づく。でも、誰にも聞かなかった。父たちが伯父に挨拶をし、村の人たちにお礼を言っている。
 ごたごたしているから、都合が良いと、均はだまって家を出て、結を探しに行った。学校の庭にはいなかった。きっと熊の森だと見当をつけて行く。熊の森は夏来たときとは違って、葉がすっかり落ちているので、夕方だけれど意外に明るい。
「結、結――」
 呼んでみるが返事はない。でも均は結がここにいるような気がした。洞を覗いてみる。そこに結がうずくまっていた。
「結……」
 近寄ると眠っていた。泣きぬれた顔のまま、あどけなく目を閉じている。均は着ている上着を脱いで、そっと掛けてやりながら、並んで座った。
 半時も経ったろうか。結が目を覚ました。
 となりに均がいるのを見ると、均の膝にうつ伏して、
「兄ちゃん、ばあちゃん死んじゃった」
 わあーっと泣いた。均はそんな結をしっかり抱いたまま、泣くに任せる。やがて結が涙を拭きながら兄を見た。
「腹、減ってないか」
「うん、お腹、空いてる。朝から何にも食べていないんだ」
「そうか。家へ帰ろう。帰らないとおばあさんが寂しがってるぞ」
 洞を出ると、結は兄と手をつないだ。
 
 家の中はまだ、ごった返していた。
「結、たいへんだったな」
 近寄ってきたのは、写真で見たことのある父であった。結は初めて見る父をどこかのおじさんように感じた。父の相手の人も来た。
「結ちゃん、はじめまして。わたし結ちゃんのお母さんよ」
「はい」
「おばあちゃん亡くなって寂しくなったわね」
「はい」
「これからは、焼津に行っていっしょに暮らしましょうね」
「はい」
父が口をはさむ。
「お前、そんなにどんどん言っても、まだ、おばあさんが死んだばかりだから無理だよ」
「ええ――」
 そのとき、小さな女の子が傍に来て、結のスカートをつかみ、ニッと笑った。結はスカートをつかんだ手を握って、
「お名前、なんて言うの」
 すかさず母親が、
「花子よ。妹なのよ。遊んでやってちょうだい」
「はい」
 結は花子と庭に出る。
 また、お腹が空いているのを思い出した。
 お腹空いたと、言いたいが、家の中が他所の家みたいで、誰に言えばよいのか分からない。お勝手には村の女の人がたくさん来て、お通夜に食べるものを準備している。
 結はお腹の空いたのを我慢することにして、花子と遊んだ。
 そこへ、均が来る。
「兄ちゃん、お腹空いた」
 思わず言うと、
「待っていろ、俺が握り飯でも貰ってきてやるからな」
 均はニコニコしながら皿に握り飯を三つのせて持ってきた。どこで食べるかと聞くので、蔵と言うと、よし、これをもって蔵に行こう。均が先に立って歩く。
 蔵の中には米櫃の上に提灯が置いてある。兄がマッチをすって、ろうそくを灯し蛇腹をもちあげた。花子はその光が珍しいようではしゃぎだす。
「兄ちゃん、花ちゃん抱いてのぼって……」
 結は提灯を片手に握り飯の皿をもう一つの手にもって、用心深くのぼった。二階へ上がると、花子は鉄格子の入った小さな窓から黄昏てきた外を見て「カラシュガナクカラカェロ♪〜」と歌いだす。
「結、早く食え。バカだなあ。腹空いたのに誰にも言わなかったのか」
「だって家の中がいつもと違っちゃったんだもん。どうしていいのか分からなくなっちゃったんだもん」
「そうか、かわいそうだったな。でも、もう安心していいぞ。兄ちゃんがいるからな。そして結は、みんなといっしょに焼津へ行くんだ。心配しないでいい。兄ちゃんはいつでも結のそばにいるからな」
「ハナチャンモ、オニギリ……」
 花子が均の傍にきた。
「はい、半分こ……」
「ハンブンコ?」
 うれしそうに手を出し、提灯に照らされる結から受け取って、オイシイネと頬ばる。その動作がかわいくて、結はおもわず微笑んだ。
「焼津に行ったら、海、見に連れてってくれる? 」
「毎日だって連れて行ってやるさ」
「うん――アメリカ、見える」
「それは無理だ。地球は丸っこいんだぞ。まっ平らだったら見えるかも知れないけれど。いや、それでも見えない。地球は結の考えているよりずっと、ずっと大きいから、アメリカは遠いのだ」
「アメリカへ行ける? 」
「行けるさ。でも行くことができるよう努力をしなければ行かれない。それには学校へ行って勉強するんだ。結が元気で頑張っていたら、おばあさんも喜ぶぞ。分かったか。結がアメリカに行きたいと、いつも願っていたら、アメリカへ行くことだってできるかもしれない。だいじなことは、悲しいことがあっても乗り越えて頑張ることだ。おばあさんを安心させてやらなければ……な。」
 結は海が見えるなら、焼津へ行っても良いような気がしてきた。
「オウチカエル」
 花子が言いだす。
「よし、花子を抱くから、結はお皿をもって来てくれ。あ〜あ、オテテご飯粒だらけだ……」
「はなちゃん、お姉ちゃんとってあげる。お手々こっちへだして……」
 花子が、結の前に手を広げる。結は、その手についているご飯粒を、自分の口でとりながら食べた。
(ばあちゃん、兄ちゃんといっしょだから、もう心配しないでいいからね)
 結は祖母がいるような、ぬくぬくを背中に感じながら梯子を降りた。 (おわり)

 

 


          

 
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2018年03月29日

NO...4885 ぬくぬくF

      7
 こんな祖母との生活に、とつぜん終りが来た。
 学校から帰ると、祖母が囲炉裏の前にうずくまっている。
「ばあちゃん、気持ち悪い? 」
 ランドセルを放って傍に行く。
「ばあちゃんは、ちょっと寝てくる。そうすりゃあ、じきに良くなるでな」
 這いながら寝床へ行こうとした。いままで、こんなことはなかった。結は心配でたまらない。先に行って、掛け布団を急いでめくると、ソエはそこへ倒れ込むような寝方をした。
「ばあちゃん、だいじょうぶ」
「うん――結、米洗えるか」
 祖母は、声を絞り出す。
「うん、できるよ」
 結は急いでお勝手に行くと、祖母が計っているように升の半分まで米を入れ、桶に移してから、金網のザルも一緒に持って、蔵のすぐ後ろにある村の井戸へ行った。
 祖母に温かいご飯を食べさせれば、気分が良くなると思うから、一所懸命である。桶に水を入れると、祖母の手つきを思い出しながら水を取り替えては洗うのを繰り返した。水が澄んだところでザルにあけて持ち帰る。
「ばあちゃん、米洗ってきたよ」
「そうか、おめえ、釜に入れて水加減ができるか。ご飯炊けるかなあ。おれは動けねえ気がする」
「だいじょうぶ、水加減って水をくるぶしのところまで入れるんだよね」
「だけど、おめえの手はちいせいから、くるぶしの上までだ」
「わかった。ばあちゃんのやっているの見ているもん。できるよ」
「飯を炊くときは、始めチョロチョロ、中パッパだ」
「うん」
「ああ、ごしてえ――。それからなあ、赤子泣いても蓋とるな……だ」
「赤ちゃんが泣いても蓋はとっちゃあ、いけないということ。いつも見ているからできそうだよ」
 結は急におとなのようなことをすることになって、自分が大きくなったように感じる。祖母を守るのは、自分だと張り切った。
 心細くはない。まず、祖母がやるように、竈に焚きつけを入れ、松葉をその下につっこむ。それから上に割った木をのせる。怖かったのはマッチをする時だ。マッチの箱にそっとこすりつけたのでは火がでない。何回もすっていると、いきなりボッと、火が出たので、驚いていろりに放り投げてしまった。祖母を呼びたくなるがそんなことはできない。祖母は病気なんだ……もう一度、勢いよくこするとマッチのジクに火が移った。うれしくなっていると、焚きつけのところへ持っていかないうちに、手の方へ来て熱かったので、またいろりに投げてしまった。もう一度すると今度はうまくいって、焚きつけに燃えついた。じっと見ていると、薪のところへも火がつく。釜はもうのせてあるから、あとは眺めているだけだ。
 ――始めチョロチョロ。中パッパ。始めチョロチョロ。中パッパ。
 何度も口で言いながら待っていると、やがて蓋が持ち上がる。ぱたっ、ぱたっ。慌てて薪を囲炉裏に二本移して火を小さくする。釜がおとなしくなった。吹きこぼれもなくなる。それをじっと見てから薪を全部いろりに移した。でもいろりのことは忘れていたから、火はだんだんと消えてしまった。
「ばあちゃん、ご飯炊けたよ」
 ほめてもらおうと、報告に行くと祖母は眠っている。もういちど竈の前にもどってじっとしていた。
 それから、茶碗を出すことを思いつく。祖母の分と自分のも並べる。おかずがない。戸棚をさがすと大根の煮物と漬物があるので、それを出した。
 また祖母のところへ戻る。あまりに静かだったから、鼻の下に手を当ててみた。息をしているような気がしない。
「ばあちゃん……」
 体をゆすってみる。動きそうもないし、目もあけない。
 ――いつものばあちゃんとは違う。
 そう思ったとき、体ががたがた震えだした。
「ばあちゃん、ばあちゃんたら……」
 大きく揺すってみる。反応がない。
 あたりは薄暗くなり始めている。電気をつけようと思っても傘のところへ手がとどかない。ちゃぶ台の上に乗って、居間の電気だけはスイッチをひねった。 そこだけが明るくなると、何も物音がしない家の中が急に怖くなりだした。
 
 祖母のところへ戻り、祖母の上に覆いかぶさるようにして、
「ばあちゃん、ばあちゃん、怖いよう、怖いよう」
 はじめは小声で泣いていたが、しまいには大声で泣き出した。それでも祖母は目を醒まさなかった。
 結はしゃくりあげながら、かまなり屋へ行った。
「おばさん、ばあちゃんが……」
「結ちゃ、どうしただや」
「ばあちゃん、動かなくなっちゃった」
「ええっ、――まさか」
 小母さんは草履をつっかけて走った。結が後を追う。
「おばあさん、おばあさん」
 かまなり屋のおばさんも、おばあさんの体をゆすった。
「結ちゃ、えれえことになっちまったなあ。おばあさんあの世へ行っちまったぞい」
「おばさん――」
 泪が出て、後は言えない。
「心配するでねえよ。おばさん家に帰って、役場に行って電話を借りて、飯山の家に電話をしてもらうからね。すぐ戻ってくるで……じきに戻るでね」
 そう言い置いて、急ぎ足で帰った。
 入れ替わりに、かまなり屋のおじさんが来て、一緒にいてくれる。かめ屋のおばさんも飛んで来た。おばあさんの布団を中心にみんなが座った。やがてあめ屋のおばさんが漬物をもって来る。かまなり屋のおばさんが干し栗を持って帰ってきた。                            (つづく)
 
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2018年03月28日

NO...4884 ぬくぬくE

       6
 初秋になるとススキが穂を出す。すると待っていたようにオミナエシも目立つようになる。中秋の名月には、ススキを花瓶にさして、お団子をつくり縁側に並べた。月を見ながらソエは言う。
「月には兎が住んでいるそうだ。ほれ、良く見ろや。兎が餅つきをしているのが見えるずら……」
 ソエは白内障でぼんやりしか見えないけれど、結には何でも教えたかった。
「ほんと。餅つきしているよ。でもどうしてあんな遠くに兎は行けたのかねえ」
「そりゃあ、おめえ、昔から住んでいたのさ」
「昔から? そうかなあ」
「そういうことになっているだよ」
「ふ〜ん、ふしぎたね。こんど会ったとき、兄ちゃんに聞いてみる」
「それがいい、それがいい。おめえの兄ちゃんは物知りだでなあ」

 翌朝、まんじゅう屋のおばあさんが太い大根を下げて来た。
「おばあさん、煮て食べるとうまいぞい」
「おお、もうこんなのができただかね。さっそくご馳走になるわね」
「先だって来た均さは、なかなかいい息子だねえ。勇吉さも、いい跡取りがいてうれしいずらね」
「そうだといいが……」
「ソエさも、行き来ができるようになりゃあ、いいねえ」
「まあ、遠いとこに住んでいるだで、難しいわね。でも均さが来て様子を知らせてくれたで、わしゃあ安心しただわね」
 泥つきの大根を三和土に置くと、
「せっかく来てくれたで、お灸でもしていくかね」
「そりゃあ、ありがてえねえ。膝が痛くてねえ」
「そんなときにゃあ、遠慮しないでいつでも来ておくれな」
「ありがとござんす。助かるわね」
 おばあさんは居間にあがって膝を出した。
 こうして、近所から野菜をもらうとおひたしにしたり、煮たりして食べる。秋になると毎日のように大根の煮物がおかずになるが、だしをとる煮干はそのまま入れてあり、結は、それを食べるのが好きだった。
 一ヶ月に一度、町から自転車の荷台に箱を積んだ魚屋が来ると、ソエは決まってサンマの開きを一枚買い、それをご飯の上にのせて炊いた。炊きあがると頭と骨をどけてから、全体を混ぜる。この炊き込みご飯は、何よりのご馳走だった。祖母は骨をいろりで焼いてこんがりとさせてから、結に食べさせた。
 また体の具合がよいときは、結を連れて栗拾いに行く。その時は、地下足袋を持ち出して履くが、たくさんのコハゼを節くれだった手で器用に掛けるのがおもしろいと結は眺める。ビクを腰に結わえつけ手拭いを首にかけると出発準備完了となった。
 落ちている栗を見つけると、地下足袋の裏で青いイガを踏みつけてから、鎌をつかって器用にとり出す。傍で待っている結は、茶色に光る栗を急いでビクに入れた。栗はいろりにくべて焼いて食べたり、茹でて食べる。余ったのを糸に通して竿に吊るした。しぶ柿をもらったときも皮をむいて糸に通すが、柿は干しあがるとカマスに入れて粉をふかせた。大きな栗をもらったときは、家の裏手へ川原の砂と一緒に土を掘って埋めた。こうすると年を越し、五月の祭りまで新鮮に保たれ、祭りの日の栗ごはんになった。
 冬になり、大雪が降ると外で遊べない。すると、祖母は人形作りをする。和紙を箸に巻きつけてグッと両方から押し縮め、広げると縮れ紙になった。それに綿を入れ糸で縛りながら髷に結う。あねさま人形の頭が形になると、着物を縫って着せた。人形の丈は20センチほどだった。
 また、小豆を炊きながら、大きなかぶと鉢を出して米の粉をねり、それを茹で、もう一度ねってから、一つ分ずつを掌に広げて餡をのせ丸める。おやきの形が出来上がると、いろりの灰の中に埋めて焼いた。ほっこり焼けるのは待ちきれないほど。やがてよい匂いがしてくると灰を手で払ってから結に手渡してくれる。熱いから右手に持ったり左手に持ち替えたりして冷めるまでがたいへんだった。  (つづく)

                             

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2018年03月27日

NO...4883 ぬくぬくD

     5
 西の山に太陽が沈むころ、学校の庭での泥だんごづくりをやめて家に帰ると、祖母は勢い込んで、
「結、おめえの兄ちゃんから手紙がきたぞ。夏休みに来るそうだ。おめえのたった一人の兄ちゃんだ。うれしいずら」
 ソエは行き来がなくても自分の孫が気になっているのだ。
「わたしの兄ちゃん? 」
「そうだ、おめえとは六つ違げえの兄ちゃんだで中学生だ」
「ふ〜ん、ちょっと会ってみたいな。だから……うん、うれしい」
「良かったな。ばあちゃんは歳とっているで、いつ死ぬかわからん。それだで仲の良い兄ちゃんがいれば、ばあちゃんは安心だ」
「ばあちゃん、死んじゃやだよ」
「そりゃあ、ばあちゃんだって、おめえを置いては死にたくねえ。だからなるたけ長生きするつもりだ」
「わたしは、ばあちゃんさえいればいいもん」

 七月が終わるころ、均が来た。背がすらっと伸びたやせっぽちの均は、白いシャツに学生服のズボン姿である。きちんと正座をして祖母に、お世話になりますと挨拶をしながら風呂敷から、菓子折を差し出した。
「つまらないものですが、父からです」
「ありがとござんす。頂戴します」
 ソエはそう言って、菓子折を頭の前に押し頂いてから神棚に供えた。
 それからソエは、いろりのいつも座る位置に行くと、
「均さや、こっちにきておくれ。ほれ、結、おめえも来いや」
 それまで二人のやりとりを立ったまま見ていた結に気づいた均が、
「結か? 兄ちゃんだ。よろしくな」とほほ笑む。
「うん」
 言いながら、祖母の隣に行き、くっついて座った。
「結は何年生だ」
「二年」
「そうか、兄ちゃんは中学の二年だ。おなじ二年生だな」
 同じと言われて結は初めて笑顔を見せた。
 祖母は囲炉裏にかけた大鍋に作っておいた、ほうとうを椀に盛って、小さなお盆に載せ、均に差し出す。それから、結の分も盛り、自分のも盛る。
 そうしながら、祖母は言った。
「結は、ほうとう好きだもんな」
「おばあさん、ほうとうはうどんの太いようなものですね」
 均は珍しげに箸でつまんだほうとうを長く持ち上げる。
「そうだよ、作り方はうどんをゆでないで、そのまま野菜といっしょにぐつぐつ煮ると、汁が少しどろっとしてうまくなるだよ」
 めったに客など来ない家に自分の孫が来たものだから、祖母も何だかうれしくなってそわそわしている。
「暑い時に熱いものをたべるのは、たくさん汗をかいて気持ちがいいずら」
「おばあさん、ほんと暑い時に冷たいものと、普通は考えるのに、おばあさんのは、昔の健康法ですね」
 言われた祖母は、納得のいくように首を縦にふった。
「結、すこし休んだら、兄ちゃんと森へ行こう。小さい時に、父さんから森の話はよく聞いたことがあるよ」
「森に行くとフクランボがいっぱい咲いているよ」
「そうか、見に行こう」
 結はなんだか大人の人と話すようだが、それとも違う親しみを感じている。
(そりゃあ、兄ちゃんだもんな)
 そんなふうに思うのだった。

「さあ、結、森へ行こう」
 兄が誘った。
 家を出たときは暑かったが、森の中はひんやりした風が吹いて気持ちが良い。
「にいちゃん家は海の近く?  海まで行かれる? 」
「行かれる。結は海が見たいのか」
「うん」
「連れて行きたいが、そうもいかない。父さんは新しい嫁さんをもらって、女の子が生まれている。その人を本当は母さんと呼ばなくてはならないが、俺にはそう呼ぶことはできない。そんな人のところに結をつれて行きたくはない」
「どうして」
「父さんはある日、とつぜんその人を連れて来て、今日からこの人がお前の母さんだと言った。俺は父さんに裏切られた気分になったんだ。母さんと全然違う感じの人だから、いやなんだよ。こんな話、結に分かるか」
「うん、わかるよ。わたしだって本家の伯父さんがいやなこと言うのちゃんと分かるもん」
「そうか、結ってそんなに頭がいいのか。それはたのもしい。兄ちゃんも学校の成績は良いぞ。結も勉強して、誰にも負けるな」
「うん」
「母さんは、俺の六歳の時に死んだ。結と俺だけの母さんだ」
「ふうん。兄ちゃんかわいそうだね」
「だから結を連れて行ってやりたいが、やめとく。結はおばあさんといる方がしあわせだ」
「ねえ、兄ちゃん、海の上を歩いたことある? 」
「何だ、とつぜんに。歩いたこと? そりゃあ無理だよ」
「どうして? 右足を出して、沈まないうちに、左足を出してって、繰り返すのをやったら、歩けるずら……」
 均は笑った。
「結が考えたのか……なかなかいい発想だな。でも、結にはまだ難しいけれど地球には重力というものがある。地球は物を引っ張る力があるんだよ。だから体の重さで沈んでしまうのさ」
「だったら、船はどうして浮いているの? 」
「これはますます難しい質問だ。今度は浮力というものがあるからだよ」
 よく分からないけれど、歩けないことだけは分かった。さっそく君ちゃんたちに教えなくてはと思いながら、何でも知っている兄を自慢したくなっていた。

 熊の森のトチの大木の下に行くと、兄は木を見上げながら言った。
「結、お前にとって、俺は一人きりの兄だ。これから先、何んでも兄ちゃんに相談するんだぞ」
 そして、手紙も書かずにさびしい思いをさせたなと付け加えた。
「ううん、平気。ばあちゃんが、いっしょだから」
 祖母といるから、さびしい思いなどはしたことがない。
「これからは、何かあったら兄ちゃんを頼りにしていいぞ。兄ちゃんは、お前のことをだいじに思うからな……母さんは俺たちの母さん一人だけだ……」
 もう一度そこを強調して、俺は、誰をも頼らないで、中学を出たらすぐに東京へ行く。そして働きながら上をめざす。かならず成功して見せるから、結は俺を頼っていいからなと、付け加えた。
 まだ小さな結に、分かるはずのない、こんな話をするのは、均の中にさまざまな悩みがある証拠であろう。だから結のところへ来たいと考えたのかもしれない。そして結を見て、つよい絆を感じたようである。
 結は、こんな話をしてくれる兄を好きになった。
 兄は、ソエに何か仕事はないかと聞く。祖母は最初、お客さんにそんなことをさせては悪いなどと言っていたが、男手がないと間に合わない仕事を頼みだし、ずっとほったらかしにしていた上野原の畑がどうなっているか見てきてくれと頼んだ。結が場所を知っているので二人で行くことになる。登る道端に岩から浸み出している水場があり、縁にツリフネソウが咲いていた。赤紫の花には斑点があり、丸まったところがいかにも釣り舟の形だと均は言う。
「兄ちゃん、この花好き? 」
「ああ、好きだ。結の好きなものはみんな好きだ」
「じゃあ、お月さん好き? お星さんは? 」
「お月さんが海の波に映って揺れているのを見るときは、ほんとにきれいだよ」
 こんな話をしていると畑に着いた。まんじゅう屋のおじさんが時々手を入れてくれているが、荒れている。兄はこれを見て、翌日から二日間、掘り起こして草取りをした。祖母も無理をしてついてきて、草を畑の隅へ積み上げうれしそうに言った。
「均さは、頼もしいなえ……」 (つづく)

 
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2018年03月26日

NO...4882 ぬくぬくC

           4
 焼津で所帯を持った時さえ、ソエには知らせなかった。均が生まれてからも、ソエとの断絶はつづいたが、結のお産の時に妻が亡くなると、このときばかりは途方にくれたらしい。ソエに電報が来た。ソエは勇吉の住む焼津まで夢中で駆けつけて、結を引き取って帰ったのである。
 山羊の乳をもらったりして、結を育てるには苦労したが、結を懸命に育てていると、結への愛情は日増しに濃くなって、今では結を育てるのが唯一の生きがいになっている。
 結が小さい時に熱がでると、ねんねこ半纏にくるんでおんぶして外へ出る。熱で気持ちが悪い結がぐずり、
「あっち……」
 指を出して指すと、言うなりに歩いた。そっちに行けば、熱が下がると思っていたようである。こんな甘やかし方で育てた。
 ソエに言わせると、結は人を思いやる気持ちが人一倍あるそうだ。腰を痛そうにしていると、後ろに回って握りこぶしをつくり、とんとんと叩いてくれる。叩いたつもりでも小さなこぶしでは力が入らないが、それでもソエはうれしそうに、
「結の叩き方はよく効くなあ。うめえもんだ」
 とほめた。
 ここまで育ったことに、いつも感謝しているソエは、毎朝、家の前を流れる川で顔を洗うとお天道さまに向かって手を合わせた。
 勇吉からは、たまに駄菓子や服などを送ってくることはあるが、行き来は絶えたままだった。
 
 鍛冶屋のおばさんが産気づいたときは夜中だった。物音で結も起きてしまい祖母について行った。土間のかまどで湯を沸かしながら、色黒い顔の小柄なおじさんが不安げにしている。結は眠りの途中で起きて来たので、いろりの火を、ボーっと見つめていた。
「それそれ、それっ」
 ときおり祖母の掛け声が産室から聞こえて来る。妊婦は唸ることはあっても、大声を出すことはなかった。
「逆子だで、ちょっと手間取るぞい」
 産室から顔をのぞかせたソエがおじさんに言う。おじさんは、一所懸命に釜を叩いて祈った。湯が沸くと、それをたらいにあけては、また新しい水を火にかけながら落ち着かない。
「結ちゃ、眠くねえか」
 結は首を横にふりながら、祖母が早くとなりの部屋から出てこないかなあと待つのであった。
 やがて、赤ん坊の元気な声が響いて、結は目が覚める。
「やれやれ、大変だったが、元気な男児だぞい」
 祖母が、赤子を抱いて出てくると、器用に産湯をつかわせた。結は怖そうに泣く小さな生き物を珍しげに眺める。今までいなかった家に今日から赤ちゃんがいるようになる不思議を感じた。
 すっかり用を済ませた祖母は手拭いで汗を拭き拭き、
「さあ、結、帰るぞ」
 言いながら、おじさんにいろいろな指図をした。
 そんなときの祖母を、(ばあちゃんは偉い人だなあ)と結は思うのであった。
 ほかにも、ソエは人にたよりにされていた。
「おばあさん、いたかえ? 」
「ああ、いるぞえ。あがっておくんな」
「昨日から、肩が張って、あんべえが悪くてねえ」
「そりゃあ、いけねえなあ。どれみせておくれ」
 肩が凝ったりして我慢が限界に達すると、近所のおばあさんたちはソエに頼った。
 ソエはハバリを使うことができた。戸棚に古びた木箱があって、そこに治療道具が入っている。道具と言っても、ハバリと吸い口、それに吸い口を皮膚にはりつける時に中を火で消毒する綿などがはいっているだけである。
 まんじゅう屋のおばあさんは、年取ったせいか、すっかり背が縮んで、着物の手繰り上げも深くなっている。曲がった腰をのばしながら繻子の襟のついた着物の胸をゆるめると、右腕を袖から抜き、左腕も抜いて上半身裸になる。萎びた乳が胸に長く垂れさがった。
 待っていたように祖母は、背に手拭いを掛ける。それから、こともなげにおばあさんの背中にハバリで小さく傷をつけた。鮮血が糸のように滲み出ると、それを見ながら吸い口の中を火で消毒して脱脂綿を入れ一気に傷の上に吸いつかせる。少しずつ吸い口の中に黒い血液が溜まっていった。
 また祖母は、もぐさを山形に局所にのせて、てっぺんに火をつける療法もした。もぐさから、細いけむりが揺れながらかすかに立ち上る。これは熱いらしい。まつ屋のおばあさんなどは顔をしかめながら、がまんしていた。
 結はそばで見ていて、痛そうと思ったり熱そうと思ったりするのが、いつもであった。
 素人療法が重宝がられるのは、村人が医者にかかるのはよくよくの時だけだからである。
 奥の部落でけが人が出ると、戸板で停留所まで担ぎだしてから、バスに乗せて町へ運んだ。このバスは一日に二往復、伊奈村まで来るだけであった。だから重病人でも馬に乗せて停留所まで連れ出してからバスに乗せた。
 たいがいは、具合が悪いと、富山の薬屋が置いていく薬袋を頼りにして、後はじっと寝て恢復を待った。薬袋の中は、熱さまし、毒草丸、百草、実母散、毒消、赤チンなどである。年二回やって来る薬屋は浅い角型の行李のような箱を四段ほど積み重ね、それを藍染木綿の大風呂敷につつんで背負い、一軒一軒を訪問しては、袋の中を調べ、使用した薬の代金を受け取って薬を追加して行った。子どもたちは薬屋のくれる四角い紙風船のおまけをたのしみにした。
 村に腸チフスが流行ったことがある。その時も医者が来た話は聞かなかった。伝染病だからうつると村人が噂をすると、みなは怖がったが、どうして感染するのかは誰も知らない。床屋のおばさんの見舞いに行った、とみた屋のおばさんがうつったとか、まことしやかに言う者がいたりした。
 かまなり屋のおじさんがチフスになった時は、家がすぐ前なので、ソエは緊張する。ちょうど蔵のわきにつくっているトマトが毎日採れるころだったから、もったいないと考えるが、さてどうしたものかと思案していると、結があたりを見回しながら、急いで三つもいで家へ持ち帰った。
「ばあちゃん、誰も見ていなかったから採ってきたよ。きっとチフスも見ていなかったよ」
 祖母は、前掛でよく拭いて結に食べさせ自分も食べた。生暖かいトマトは、そのころ村に来るようになった野菜で、食べ馴れない味だが、酸っぱみと甘みがおいしかった。
 結は毎夜、祖母の布団に寝た。
 話をせがむと、決まって「傘地蔵」の話になる。いつも同じ話だ。
「むかしむかし、あるところにじいさまとばあさまがいたとよ。じいさまは貧乏だったで、正月が来るというのに餅も買えねえ。そこでじいさまは薪を町に売りに行って帰りに米や餅を買って帰ることにしたのさ。途中まで行くと、雪が降ってきた。この降りじゃ積もりそうだぞと、天を見上げて心配しながら歩いていると、六つ並んでいるお地蔵さまのところまで来た。じいさまは、こんな日は地蔵さまもさぞ寒かろうと思うた。おれは家の中で眠るが、地蔵さまは、外で寝るだで、寒いはずだ。地蔵さま、帰りに傘を買ってくるで、待っていてくだされと、約束したのさ。ところが薪を売った金で、傘を買うと五つ分しか買えねえ。餅も米も買えなかった。仕方なく地蔵さまのところまで帰って、雪を払って傘をかぶせると一つ足りねえ。そこでじいさまは、自分の褌を取り出して、これでがまんしてくだせいよ……そう言いながら、六つ目の地蔵さまに、これは俺の体で暖まっているで、温ったけえぞえ……と言ってかぶせてやったとさ。家に帰ると、ばあさまが腹を空かせて待っていたけど、ばあさまにわけを話すと、それはしかたねえなえ。いいことをしたでねえ、と言い、その晩は白湯を飲んだだけで寝たとさ。ところが夜中のことだ。「ばあさんや、外がさわがしいぞえ」と、じいさまが言う。なんだなあと、戸をあけてみると、ふんどしを頭に巻いた地蔵様が先頭に立って、荷物をいっぱい積んだ荷車を、編みがさの地蔵さまたちが押している。じいさまとばあさまがびっくりしていると、昼間はありがとうござんした。餅も米もたっぷり持ってきたで、よい正月をやっておくんな。そう言って積んである荷物を全部降ろして帰って行ったとさ。おかげでじいさまとばあさまは、たらふく食べられる餅や米があるよい正月を迎えることができたのさ。お・し・ま・い」
 祖母の歌うような話しぶりを聞きながら、結は、じいさまたちはたくさんの食べ物をもらってよかったなあと思い、じいさまが親切に傘をかぶせてやったからだと思いながら眠りに就くのであった。日によっては話の最初で寝てしまったり、途中で寝てしまったりもした。
 祖母のふところに抱かれて、体をまるめていると、祖母の声は頭の上からひびく。そのぬくぬくが大好きだった。安心して目を閉じていると、目の中にたくさんの金色の花が咲くので、きれいだなあと思いながら、たいがいの日はじいさまが町へ薪を売りに行く場面あたりで、もう深い眠りに落ちた。     (つづく)
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2018年03月25日

NO...4881 ぬくぬくB

     3
「町の飯山の家って、結ちゃんとこの親戚なんだってね。それなのにお祭りのときも行かないの」
 君江が聞いたことがあった。
「うん行ったことないよ」
 すると、奈津子が、
「うちの母ちゃんが、結ちゃんのお父さんは、ベツバラだって話していたよ。何のことって聞くとね、結ちゃんのお父さんは結ちゃんのおばあさんから産まれたんだって」
「そうだよ。おかしいことないでしょ」
「うん、そうだよね」
「何だっていいんだよ。わたしはおばあちゃんといっしょなんだから……」
「そうだよね」
 子どもたちには分からないはずである。
 つまりソエと飯山のおじいさんの間にできた子が、結の父なのだ。
 飯山の家は、昔、村にあったが、おじいさんが東京で医学の勉強をして帰った時に、村で開業するのは無理と判断をして町へ移った。
 そのころソエは飯山の家で働いていたが、ふとしたことから、おじいさんの手がつき身ごもってしまう。
 ソエは主人に逆らって暇を出されるのを恐れて、されるままにがまんしたのだったが、まさかそんなことで赤ん坊ができるとは知らなかった。
 山一つはなれたところに住む両親はかんかんに怒るが、子沢山で口減らしのために預けたソエに帰れと言う余裕はなかった。おじいさんも事の成り行きに当惑して、奥さんの言うとおりにしたのである。
 おじいさんの奥さんはしっかりものと言われた人で、うらみがましいことは何も言わないまま、子が生まれる前に、ソエを伊奈村の空き家になっている家に住まわせた。そして二度とおじいさんに会わせなかったのである。だから、飯山の家では、今もソエに多少の生活援助をしている。
 
 ソエが村に来たときは、くちさがない人の好奇の目にふれて、その日のうちに村中に身ごもっていることまで知れ渡ってしまった。
 覚悟を決めて来たソエだから、それくらいの冷たい目にはじっと耐え、死んだつもりになって子のために生きようと決心する。そればかりか、ここで生きていくには、何をしたらよいかと、生き方まで探すようになった。
 あるとき、あめ屋のおばさんの難産を手伝った。それが評判となり、以後お産があると、どの家もソエに頼んだ。こんなことがきっかけとなってソエの人柄が村人に受け入れられるようになり、お礼に野菜をもらったり、米をもらったりして、村の生活に慣れていった。
 飯山の家で働いていたころ、往診にカバン持ちでついて行くと、出産に出会うことがあった。産婆さんが手際よく産ませるのを何回も見た。見ているうちに、見よう見まねで憶えたのが産婆の仕事である。
 月満ちて産んだ勇吉を一所懸命育てたが、思春期になると勇吉は何かと反抗し、口もきかなくなる。幼いころから村人たちの噂話に傷ついていたようで、小学校高等科を終えると、ソエの気持ちを無視し、目的なしに家を出て、天竜川に沿ってくだった。そして偶然住みついたのが焼津の漁師の家だったのである。特別なことがないかぎり便りを寄越さないのは、自分の出生について、未だに母親によほど腹を立てているのであろう。                 (つづく)

      
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2018年03月24日

NO...4880 ぬくぬくA

          2
 帰ると伯父が来ていた。祖母は曲がった背をさらに曲げるようにして、医者の伯父の話を聞いている。細かな縦縞の着物に自分で織った帯をしめ、着物の前が汚れないように黒っぽい前掛けをしている。黒繻子のついた襟を汚さないために、手拭を上から襟を覆うように掛けているが、その上にのっている顔は恐縮しきっていた。
「だから、いつまでも預かっていることはない。返せばいいじゃないですか」
「でも結が離れたがりませんよ」
「私が言って聞かせるよ」
 真剣なやり取りをしている二人は、結のことを話していると直感する。
 家に入らないまま、薪のつんであるところにズロースを干して土蔵へ行った。
(ばあちゃんと離れるのはいやだ。それくらいなら死んだ方がいい)
 涙が出そうになる。
 蔵の分厚い土戸は、天気の日はいつも開けてある。そしてもう一枚の戸も開けて風を通している。網のかかった三番目の戸を引っ張って中へ入り、梯子の傍まで進む。そうしながら深呼吸をすると、長年蔵にしみついた穀物の匂いは、空になっている今も、しっかりと嗅ぐことができる。結はこの匂いが大好きだった。
 ひんやりした細い丸太の梯子をのぼって二階へ行くと、一つだけある小さな窓から青い葉っぱの照り返しが入っていた。蔵の横に立つ木は、たしかにサクランボだと祖母は言うが、実が生ったのを見たことはない。下には小川が流れて、村人はこの川で茶碗も洗うし、洗濯もするし農機具も洗う。飲み水はどの家も、村に三ヶ所ある井戸から運んで、お勝手のカメにためていた。
 後ろを振り返って、積んである布団の傍まで行き、そこに寄りかかって、じっと窓の方を眺める。涙が出た。伯父に責められている祖母が気にかかるのである。
 伯父はいつまで、くどくどと祖母を責めるのだろうか。
「子どもは親が育てるべきだ。それを本人が、おばあさんといっしょにいたいというだけで、わがままを聞いてやるのはよくない」
 そう言っていたように思う。
「第一、 自分の子を預けながら、弟は仕送りもして来ないではないですか」
 そんな攻め方もしていた。結は七歳だけれど、何を言っているかは、だいたい理解ができた。
 カンカン帽をかぶった伯父が帰って行くのを蔵の窓から見ると、そっと梯子を下りて、祖母のところへ行った。
「どこへ行ってただや。また君ちゃと一緒だったかや」
「うん」
 結はそれ以上言わないままに、祖母の膝にのる。祖母の髪につけたツバキ油の匂いをかぐと、ようやく気持が落ち着いた。
 伯父のことを聞きたいが、聞いては祖母がかわいそうだから黙って、祖母の手をとり、いつものように、その甲を自分の親指と人差し指でつまむ。祖母の手は弾力がないので、つまんだところが山形に盛りあがったまま、しばらくは戻らない。結はそれがおもしろくて、何回も繰り返した。祖母は体を前後にゆする動作をしながら考え事をしているようであった。 (つづく)

      
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2018年03月23日

NO...4879 小説・ぬくぬく@

人生の終わりを考えるとき、身の回りをすこし整理したくなり、同人誌・出現にお世話になった作品をここにまとめようかと思い立ちました。
図書新聞で評されたものです。
評者◆たかとう匡子氏
寺山あきの「ぬくぬく」は、かつて日本の田舎によくあった家庭事情を入りくませた小説。七歳の孫の結とふたりで暮らす祖母のソエは奉公先のおじいさんとのあいだで結の父親を生んだ。父親はその出生に腹を立て何かと反抗的で、学校を出るころ家出して、世帯を持ったことも知らせなかった。しかし結のお産のとき妻が死んだため、電報が来て、ソエは駆けつけて引き取って帰った。こんな事情のなかで祖母が急死する。小さい挿話を対話のなかでかさねていく手法で、七歳の女の子のけなげさ、祖母との和合を中心に、私はある種の母のぬくもりのようなノスタルジアを感じた。今こそ忘れてはならない原点のような気がする。

       『ぬくぬく』

      1
  伊奈村は、川に沿って六十四戸がかたまっている。
 祖母のソエと孫の結が住む家はその中ほどにあり、家の中はいつもガランとしていた。「産めよ増やせよ時代」のこと、他所はみんな大家族だから、余計にそう感じるのである。
 土間のつづきに、ふすぶった居間があり、暮らしのほとんどは、いろりのまわりですんでいる。脇のちゃぶ台で食事をするが、いろりに近い角の右側がソエ、左側に結が座った。居間の横には田の字に座敷がつづき、手前すぐが、寝部屋になって、ここには万年床が敷かれている。
 昔、本家の人が住んでいたころ、座敷と二階は蚕室になっていた。その証拠に二階はだだっ広いだけで、今は雨戸も閉めきったままである。でも、一年に数回だがソエが機織りをするときは、北側の板戸を二枚開けて明かりをとる。大げさな機織り機も、織るものは自分の帯ぐらいで、これは、ぼろ布をさいて溜めたものを使いお役目ごめんになった布たちも織り上げると、再び素朴な味を見せた。
         
 じりじりと暑い夏の昼下がり家から出てきたのは結である。
 替えのズロースと手拭いを手に、河原へ行こうと近道を通る。角を曲がったところにあめ屋のおばさんが、筵に並べた梅干をひっくり返していた。
「おばさん、うまそうだね」口の中を酸っぱくしながら言うと、
「結ちゃ、ほれ、一つ口に入れて行けや。水遊びに行くんか。川は深けえところに気をつけるんだぞ」
「うん。おばさん、ありがと」
 河原は水の流れているところ以外は、ごろごろ石で埋まり、岩ほどの大きな石もいくつかあって、裸んぼうの男の子四人が一番大きな石によじ登って甲羅干しをしている。
 安全に泳げるところは、その石のすぐ下の一か所だけで、ここは急な流れをそれた水が、青々と底を見せていた。川は、今日が緩やかだからと言って安心はできない。大雨が降ると、たちまち上流から泥水が押し寄せ、流れを変えてしまう。子どもたちは誰に教わるわけでもないが泳げる場所探しには慎重だった。
 手前にいくらかの砂場があって、そこに君江と奈津子が砂山をつくっていた。汗と汚れでクチャクチャになったワンピースから出ている腕も首も日焼けで真黒である。
 結は二人の傍まで行くと、道々考えてきたことを聞く。
「ねえ、海って、どのくらい大きいか知っている」
 結より一つ年上の君江は物知り顔をする。
「こ〜んなに広いんだって。うちの姉ちゃん言ってたもん……」
 立ちあがって両手を横に広げ、それを後ろにありったけ行かせたので、すんでのところで藁草履の足がよろけて転びそうになる。
「ええ、そんなに広いの。たんと水があるところなんて、わからないなあ」
 奈津子も、
「そんなに水がいっぱいのところって、ほんとにあるずらか?」
「そりゃ、あるずら。この川の水って、みんな海に流れて行くんだもん」
「そうだね。日本中の水がぜんぶ海に行くんだもんね」
「世界中の水もだよ」
「ふ〜ん。それならすごいわけだね」
「結ちゃんは海見たことある?」
「ないに決まってるじゃん」
 結は海を見たいと思う。父の住んでいるのは海辺だと祖母から聞いているが行ったことはない。
「海の向こうにはアメリカがあるんだって。行く時は船に乗るんだよ」
「船じゃなくて行くとしたら……」
「飛行機でしょ」
「飛行機じゃなくても、歩いて行けるんじゃないの」
「どうやって?」
「あのね。右足を出して、沈まないうちに左の足を出す――それを繰り返したら……」
 結の発想はとっぴだが、君江も奈津子もできそうに思う。
「川に入って、練習してみようか」
 三人はさっそく、裾をパンツの中につっこんで浅瀬を選んで練習する。だが、どうしてもうまくいかない。水の中でよろけると、転んでしまい背中まで濡れた。
「毎日練習すれば行けるようになるんじゃないの」
 言いながら奈津子は濡れたワンピースを脱いで石の上に広げた。後の二人も同じことをし、ズロース一枚になって浅瀬でチャプチャプと足だけを動かした。三人とも泳ぐことはできない。やがてその遊びに飽きると、つぎは草や花をとってきて、石の皿に盛って、ままごとをするのだった。             (つづく)
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2018年03月22日

NO...4878

テレビ5局の共同企画「池上彰のビッグ対談」3日目。
今回は「武士の家計簿」を書いた磯野道史氏。毎木曜日放送のBS「英雄たちの選択」で司会をしている人。
対談は日本が抱えている問題を氏の歴史観を縦軸に、池上氏の知識を横軸にして日本の現在の国情と国民についてを考えることから始めた。
まずは政治不信について。歴史的考察から見る必要があると言い、それには江戸時代が重要だと。西洋と違う点は、国民が政治にあまり興味を示さない。理由は税を受ける側〔武士)と納める側〔農民)が完全に分かれていた長い歴史が、政治はお上が行うものという考えを現代にいたっても影響させている。〔例・フランス革命などは一般人が起こした)
話題の中で磯野氏が注目する3人として、歴史から尾崎行雄・小早川隆景・西郷隆盛を挙げる。共通しているのは歴史や、起こりつつある問題についての解決法を探すときに「何を大事にするか。どこから眺めるか」を考えに入れたと説明した。
氏の話では、江戸が明治よりも現代の基礎を作り〔例・寺小屋。当時の識字率40%)に影響していると。大いに興味深い話であった。
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2018年03月21日

NO...4877

テレビ5局の共同企画「池上彰のビッグ対談」を観た。
今回は美輪明宏。長崎生まれ10歳で被爆し後遺症にも苦しんだと。その時の様子を、体験者ならではの凄さで語る。
原爆投下。最初マグネシュームを100万個焚いたほどビシャっと光る。音が止む。その後一気に轟音。表に出ると阿鼻叫喚が広がっていた。
目の前で背中から下ろした子の首がないのを見た母親は泣き叫ぶ。するといきなり前にいる姑らしい者が母親の口めがけてゲンコツを突っ込んだ「なんばしょっと」嫁が舌を噛み切ろうとしたのを察知、止めたのだ。空襲警報のサイレンは鳴らなかった、警報がでたのはずっと後だった。
横倒しになった馬車の横に馬が死んでいる。その横に人がフライパンの上で豆を炒ってるようにピョン、ピョンと飛び跳ねている。隣には娘が腰を曲げたまま固まって死んでいる。道行く人の皮膚はみんな垂れ下がっている。その人を頼ろうと腕を掴むと掴んだところがベロっと垂れ下がった。
ーーこれが10歳の丸山少年が見た戦争だった。
他にもいろいろ話した。「北朝鮮の核実験はコンプレックスの裏返しであり、パフォーマンス」だとも。独特の見方だが納得するものを持っている。また親交のあった三島由紀夫のこと、当時の文化人の話などなど。
最後にまとめとして、「真理と常識」について語る。終戦時、一夜で常識がひっくり返ったから「常識」は信用できない。変わらないのは「真理」だと言い切った。
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2018年03月20日

NO...4876

昨日観ていた「徹子の部屋」の人形作家・与勇輝氏は、どこにでもいそうな職人風の穏やかな人。この人がパリで展覧会をして大成功を収めたようです。最近作のサッカー少年をテーマにした人形3体を出しました。ボールを蹴っている少年や地べたに座ってカバンのチャックを広げ、ハンバーグをパクついている少年など。無邪気さがたまらない作品たち。
絶対に見たいーー。東京でも展覧会があると言います。「銀座の松屋かあ、それでも行きたい」と思っていると、横浜高島屋にも展覧会があると続いての案内。5/18〜5/28日までだと。さっそく予定表に書き込みました。
時代の表情やテーマ性のある人形展が好きです。今まで感激したのは、横浜そごうで見た石井美千代「昭和の子ども展」や東京有楽町近くの地下の催し場で見た高橋まゆみ「いのちいっぱい展」などです。
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2018年03月19日

NO...4875

彼岸の入りなので、草餅をつくろうと思い立ちました。
上新粉と餡子、それにきな粉は戸棚にあります。そこで昨日は犬がオシッコをかけない場所と思える山の方へ摘み草に行きました。ところがそこには思ったほどありません。それで今日は犬の行かない道へ行き摘みました。
帰宅すぐに鍋を火にかけ、その間にヨモギを丁寧に洗い、茹でました。つぎに上新粉を袋の説明どおり1袋250gに280ccの水を入れて練り、これをチンで5分。茹で上がったヨモギを水にとって冷やし、後は細かに切り、それをさらにブレンダーで細かくし、チンから出したのと混ぜてよくよく練ると、白い粉が若草色に染まり春を感じさせます。後は適当にちぎって丸め、それを餃子の皮のようにして、餡をいれ手の上で丸めて、きな粉をつけて円形に。これで出来上がり。
仏壇に供え、友のところへも。後は自分とイーナの口にも入れて1日が終わりました。
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2018年03月18日

NO...4874

偶然見つけたのはドギュメンタリー番組、BS午後7時「奇蹟のレッスン」。
今回のコーチは吹奏楽でマイケル・スキャスデー氏。ニューヨークで指揮者として活躍している一流人です。指導を受けるのは、学校コンクールに出場するのを目指している越谷市立東中学校吹奏楽部の27人。
6日間のレッスン。1日目はまず演奏してくださいと言われ「アパラチアン序曲」を演奏しますが音がバラバラ。何しろ楽器は10種類以上で合わせること自体が難しいのです。それに子どもたちは、わが道ばかりで歩み寄ることをしません。マイケルは隣の音を聞くことや呼吸法から教えます。そして音楽は人間が作り上げるものーーここが大切と教えます。
わたしの耳でも作り上げる音楽がどんどん変わっていくのを感じました。ところが4日目のこと、インフレンザで7人が欠席。大打撃です。それを受け持ちのパートや楽器の持ち場を変えての対応で練習。
マイケルは大切なことは「才能・努力と人に優しく」だと教えます。こうして短期間に音がみるみる違って行きました。
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2018年03月17日

NO...4873

北風が吹いてじめじめした日でした。新鮮村というスーパー内の魚屋を通った時、なんとなく気が向いてニシン3匹がハッケージになっているのを買いました。
わたしとしては非常に珍しいことです。帰宅してすぐに、臭くなっても大丈夫なまな板を準備、ここで魚の鱗をこそぎ、頭をとって内臓を出しました。そして3つにぶつ切り。頭などはビニール袋を二重にして入れ、しっかり縛りゴミ箱へ。結婚以来こんなことをしたのは、数回あるか、ないかです。
気が向いたのはニシンの豊漁をニュースで観たのと、ニシンなら好きだから食べられそうだと考えました。
煮付けてはみたものの、そのままにして冷めてから食べてみるとまあまあです。でもイーナは大喜び。今夜はこまでにして明日はしっかり食べます。
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2018年03月16日

NO...4872

「クレーマー ・クレーマー」をBSで観ました。観るたびに感激の箇所が違います。今回は子役の演技の上手さを堪能。
結婚のために仕事を辞めて家事育児と、まるで日本の主婦に似た生活。夫は日本の夫のように仕事一筋。子供は7歳の男の子。
その妻がある日、家を出て行きます。夫は驚き「家族のために一所懸命働いているのに何が気に入らない?」日本流に言えばこうなります。
残された父子の生活は最初うまくいかなかったものの、紆余曲折を経て、実に仲良く暮らすようになり、今では息子が夫の生きがいになっています。
そんなある日、妻は子供を引き取りたい。小さいうちは母親が必要だと言い出して裁判沙汰にまで発展。結局、母親と暮らすよう判決が出ます。
裁判までしたのに、最後は大岡越前裁判のように、子を挟んで2人は綱引き状態。ところが最後は妻が「あの子にはここが一番」とつれに来たものの手を離すことに。結末はさて〜。


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2018年03月15日

NO...4871

ボクイーナだよ。
あのね、公園のハクモクレンみんな開いちゃったよ。そして、ピンクの濃い横浜彼岸桜が咲きそうになってるよ。
春って、いいねえ。暖かいでしょ。日本晴れでしょ。午後の散歩は、いつもの散歩では見かけない人がいっぱいいたよ。きっと「啓蟄」過ぎたから、もそもそと虫と同じように出てくるんだね。
バアちゃんね、長浜ホールの前でツクシ見つけて摘んできたよ。そして佃煮のように煮て、おいしいおいしいと喜んでたよ。ボクにもくれたけれど、食べられなかったよ。
帰りに水溶性肥料を買ったよ。花たちを一斉に咲かせるつもりらしいよ。
やっぱり春っていいね。なんだか前向いて駆け出したくなるよね。
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2018年03月14日

NO...4870

アマゾンは人の生活を覗いているかと思えるほどのときがあります。
今朝のことでした。コーヒーのドリッパーで手軽に飲もうかと、流しの下を探しました。ブラスチックのを見つけてカップの上に置き、紙のドリッパーを置いて淹れました。それをコタツに持ってきて飲みながらパソコンを開けると、アマゾンからのメール。
なんと「この商品は如何でしょう「ハリオのドリッパーとコーヒーサーバ」が写真付きで案内されています。
「どうしてわかったの? 」となります。
今朝はなんとなく手軽にしただけですから、他に淹れる道具があるので買うことはしません。でもーーわたしの買い物はアマゾンだけですから、管理されているような気がして気持ちが悪い。ほんとうに不思議です。どこで見ているのかなあ〜。
でも、正直PC内の買い物は助かるものが多いのです。
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2018年03月13日

NO...4869

若竹千佐子著「おらおらでひとりいぐも」を読みました。表紙の帯にはゲラゲラ笑いながら読み始める/音読すると更におかしいと言っている人もいましたが、わたしにとっては笑えるような話ではありませんでした。
理由は、若竹さんが書いている桃子さんの立場にわたしがいるからです。わたしはこの小説のテーマは老人の「孤独」だと思います。
『あいゃぁ、おらの頭このごろ、なんばおかくなってきたんでねべが、どうすっぺぇこの先ひとりで、何如にすべがぁ。何如にもかじょにもしかたなかっぺぇ。てしたことねでば、なにそれぐれ。だいじょぶだ、おめえにはおれがついてっから、おめとおらは最後までいっしょだがら。あいゃぁ、そういうおめえは誰なのよ。決まってっぺだら。おらだばおめだ。おめだはおらだ』ーーこれが書き出しです。
子育てを済ませ、夫も逝った。残されて独りぼっち。家の中で音を立てるのはネズミぐらいなもの。恐ろしいほどの孤独は過ぎ去った日々をまな板の上に次々とのせます。東北の方言と普通の文がないまぜになるところが哀しみをさらに誘い出します。
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2018年03月12日

NO...4868

逗子文化プラザなぎさホール「読響アンサンブル・木管五重奏の響き」というコンサートへ三男と(嫁さんも会場に)行きました。
出演者は読響の倉田優(フルート)・辻功(オーボエ)・金子平(クラリネット)・吉田将(ファゴット)・日橋辰朗(ホルン)のメンバーです。
共通しているのは「吹く楽器」。特殊な演奏なので曲目は知らないものばかりでした。しかしパンフレットの2番目にそれぞれの独奏があり、どの楽器がどんな音を出すのか、初めて個別に聞くことができて、わたしにはとても興味深かったです。
逗子というところは場所柄のせいか年配の人が多く来ていました。
また隣に図書館があって、あまり広くはないけれど、本棚が低く大勢の子供が来て自分で本探しをしているし、大人は読書コーナーのソファーでゆったりと、その場で読めるものを手にしていました。
石垣島の図書館が素晴らしいことを以前ここに書きましたが、それに似た光がいっぱい入るモダンで明るい図書館でした。
posted by akino at 00:00| Comment(3) | カテゴリ無し | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする